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きくらげのおはなし⑧「アラゲキクラゲ栽培においてカルシウムは必須なのか!?」

きくらげのおはなし⑧「アラゲキクラゲ栽培においてカルシウムは必須なのか!?」

今日の!<これだけ知っていればOK!>
・今回、使用した菌株では菌糸伸長レベルでは貝化石添加量は3.0%が最適!
・貝化石を適量添加することで培養日数を40、50日に短縮することも可能!
・今回の調査結果は日本きのこ学会誌にタイトル「 アラゲキクラゲ栽培における貝化石の添加効果 」で掲載!

今回はアラゲキクラゲの栽培において「必須」とされているカルシウムが本当に必要なのか私の調査結果が出ましたのでお話ししてみたいと思います。

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先に結論から言っちゃいますけど

アラゲキクラゲ栽培にカルシウムは必須です!!

でもそもそもなぜアラゲキクラゲの栽培ではカルシウムを添加するのでしょうか?

 
pHの調整?
菌糸の伸びが良くなる?

などと言われていますが実はアラゲキクラゲでは今までカルシウムを添加することでどのような効果があるのか研究・報告されたことが無かったようなのです。いわゆるTo my knowledgeの範囲ですが

このように研究・調査されてこなかった経緯としてはこれまでの記事(きくらげのおはなし②「アラゲキクラゲ生産急増の理由とは?」)にも書きましたように国内におけるアラゲキクラゲ栽培は輸入に大きく依存しています。そのため、アラゲキクラゲの栽培条件については検討が軽視されてきました。実際、多く場合、シイタケ用の菌床がそのままアラゲキクラゲに流用されてきたようです。シイタケ菌床にはカルシウムを添加しますのでアラゲキクラゲにおいてもそのままカルシウムが必要と考えられたのではないかと私は推測しています。このような流れでしたが近年のアラゲキクラゲの急激な生産拡大と今後の国内生産基盤の強化を見据え、最近になってやっと栽培条件の検討が全国的に広がりつつあります。

さて、このようなカルシウム添加の理由がなぜかはっきりしない国内事情を知って頂いたところでそれでは私が実施したカルシウムの添加効果についての調査結果について言及致しましょう。

ただ、実際には生産者はカルシウムそのものを使うわけではなく、一般的に炭酸カルシウムを主成分とする貝化石(石灰岩)を使います。牡蠣殻を使う方もおられるかもしれません。私の調査では貝化石を使いましたのでご留意ください。貝化石は全国のホームセンターなどでも容易に入手できるものです。

私の調査ではこれを加えた培地を使ってアラゲキクラゲの菌糸が最もよく伸びる貝化石添加量をまずは試験してみました。どうやって試験したのかというと下の写真をご覧ください。試験管に培地(ブナオガ、フスマ、ヌカ+貝化石)を一定量詰めてそこにアラゲキクラゲ菌糸を接種して比較するだけです。3週間経過すると貝化石の添加量によって菌糸伸長に差が出ました。

3週間経過したアラゲキクラゲの試験管培地。
白い部分はアラゲキクラゲの菌糸が伸びているところ。
青い点は1週間毎の観察結果です。

当初は培地重量の0‐2.0%まで0.5%刻みで添加して試験してみたのですが最大値が明らかにならなかったのでさらに2.0‐3.5%まで添加して試験を行ったところ、下の表のように貝化石を3.0%添加した培地で最も菌糸伸長が良い結果となりました(赤い四角で囲ったところです)。



次によく言われるpHに対する影響です。炭酸カルシウムを主成分とする貝化石はpHを上げる効果があり、これが良いとよく言われますが実際のアラゲキクラゲ用の培地ではどのような結果となるのでしょう?

下の表は貝化石を添加しない(0%)の培地と先ほど最良の結果となった3.0%とその±0.5%の貝化石を添加した培地の滅菌後のpHです。いずれの添加量でも貝化石を添加することでpHの向上がみられました(黄色い四角で囲ったところです)。これが菌糸伸長促進の一因と考えられます。今回、使用した菌株は(一財)日本きのこセンターの主力アラゲキクラゲ栽培品種「菌興AP1号」詳細→アラゲキクラゲ栽培品種「菌興AP1号」のご紹介)ですがこの菌株に限って言えpH6.3‐6.5あたりが最適なpHなのかもしれませんね。

ここまで菌糸伸長から最適な貝化石の添加量を求めてみましたが一番大事なのはやっぱり「どれだけたくさんきのこが採れるか?」ですよね?

そこでここまでで明らかになった貝化石の最適添加量である3.0±0.5%を加えた菌床で栽培試験を行いました。さらに一般的にアラゲキクラゲは60日以上培養が必要とされていますが今回は40、50、60日培養で栽培試験を行いました。

下の表ではその結果を示しています。いちばん右が菌床1個当たりの収量(採れたきのこの量)ですがアラゲキクラゲは一般的に乾燥重量で計量されますのでそれに倣っています。貝化石を添加しない(0%)培地では収量は少なく、貝化石を添加することで著しい増収となりました。また、興味深いことに貝化石の添加量や培養日数に関係なく、同等の収量となりました(黄色い四角で囲ったところです)。このことは一体、何を示しているのでしょうか。

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この結果が意味するところは貝化石を適量添加することでこれまで一般的に60日以上とされてきた培養日数を40-50日まで短縮することが可能なのでは!?と私は考えています。培養日数を20日間短縮できれば大きなアドバンテージを得ることができますよね。

[まとめ]
現在、アラゲキクラゲの国内生産は急増し、10年間で7.7倍もの増産となっています。しかし、外国産が依然として90%前後を占めており、価格的にも優位です。現在の国内生産をさらに盤石なものにするためには生産基盤の強化が重要です。その中で今回のような地味で小さな研究ではあるけれどその積み重ねが日本国内におけるアラゲキクラゲ生産を確固たる農産業に成長させる基礎となればよいと私は思っています。

今回の研究成果はタイトル「 アラゲキクラゲ栽培における貝化石の添加効果 」として日本きのこ学会誌に掲載されました。本研究のより詳細をご希望の方は本ブログの「お問い合わせ」よりご連絡ください。
→奥田康仁・田淵諒子・福島(作野)えみ:アラゲキクラゲ栽培における貝化石の添加効果,日本きのこ学会誌,29, 75‐78 (2021)

今日の!<これだけ知っていればOK!>
・今回、使用した菌株では菌糸伸長レベルでは貝化石添加量は3.0%が最適!
・貝化石を適量添加することで培養日数を40、50日に短縮することも可能!
・今回の調査結果は日本きのこ学会誌にタイトル「 アラゲキクラゲ栽培における貝化石の添加効果 」で掲載!

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