きのこ研究者が一般の方から生産者、研究者向けにユルく、時にスルドく「きのこの話題」を提供するブログです! In this blog, mycologist-O provides mushroom topics from the general public to producers and researchers!

ブクリョウ講演&パネルディスカッション報告@漢方産業化推進研究会

ブクリョウ講演&パネルディスカッション報告@漢方産業化推進研究会

珍しくスーツです。

皆さん、こんにちはー!今年もよろしくお願いします。

さる2022年12月2日、漢方産業化推進研究会のセミナーに御呼ばれしてお伺いして参りました。セミナーのテーマは「食と漢方の安全保障」!このブログのテーマ「きのこ」とどう関係あるの?と思われた方もおられるかもしれません。マンネンタケやサルノコシカケ(図1)を思い浮かべられた方は惜しい!これらも薬用きのことして知られていますが、日本国内においては正式に薬とは認められておらず、民間療法としての位置づけにあります(中国では薬やサプリメントとして良く栽培されています。図2)。対して「ブクリョウ(茯苓)」や「チョレイマイタケ(猪苓舞茸)」というきのこは漢方薬の材料(生薬)として認められています。私はこのうち、ブクリョウ(図3)という薬用きのこの栽培について研究しています。

図1 サルノコシカケのなかま「コフキサルノコシカケ」

図2 中国におけるマンネンタケの栽培(安徽省)

図3 薬用きのこ、ブクリョウ。コブのような所が生薬利用部位である菌核

実は輸入に依存している日本の医療、漢方

生薬の多く、90%近くが実は海外(主に中国)からの輸入品となっています(図4)。しかし最近では中国における健康志向の向上による需要の高まりで価格が高騰しつつあります。またコロナ禍もこれに拍車をかけています。一部の生薬については入手が滞っており、大手製薬会社において出荷停止などの事態も起こっているようです。

図4 生薬の生産国。中国が多くを占める。

ブクリョウも例外ではなく、99.9%、つまりほぼ全品が中国からの輸入品です。しかもブクリョウは年間使用量の第3位(約1500トン以上)に位置するほど、需要の大きな生薬です(図5)。生薬が枯渇することは日本の医療崩壊にもつながる重大な事態です。しかし、このような事態を海外の生産地で打開するのは難しいようです。

図5 ブクリョウの国内使用量。第3位に位置する。

下の写真をご覧ください(図6)。ブクリョウはマツを利用して写真のような野外で栽培されていますがその周りは全て伐採されており、何もありません。この跡地にはマツではなく、スギのような建材になる木が植えられるとのことでした。私は中国においてもマツは伐採が制限される傾向にあり、今後はマツを使ったブクリョウの野外栽培は難しくなるとの見方をしています。このように生産地において栽培資源が枯渇すると、日本への輸出量が大きく減る、または価格が高騰することが予想されます。

図6 中国におけるブクリョウ栽培。斜面で行われ、重労働となる。

これまで私は国内、特に鳥取におけるブクリョウ栽培技術の開発を試みてきました。鳥取県はスギの産地です。スギを使って野外の様々な場所で栽培をしてみましたが現実的な収量は得られませんでした。そこでスギを耐熱性のある袋に入れて滅菌する方法を採用しました。すると今度はスギから樹脂がにじみ出て耐熱性の袋でも溶けてしまうことが分かりました。また、樹脂には抗菌成分が含まれていることからブクリョウにとっては有害です。そこで樹脂を除くために風雨に曝してみました。1-2ヶ月ではダメでしたが4カ月以上、野曝しにしてみると、、うまくいきました。下の写真のように丸々としたブクリョウの菌核が形成されました。実はブクリョウはいわゆる「きのこ」の部分を生薬として使うのではなく、菌核という構造(コブのようなもの)を使います(図7)。実はこの栽培方法はそんなに難しくは無く、樹脂を除いたのち、原木を耐熱袋に入れて滅菌、ブクリョウ菌糸を接種して待つだけ、と容易です。

図7 スギを使ったブクリョウ栽培。赤丸の中が生薬部位である菌核。

ブクリョウという非常に需要が大きい生薬の生産が国内でできれば日本の医療に強く貢献できます。しかし、事業化のハードルは未だ高いと言わざるを得ません。高騰しつつあるといっても中国産の価格は安く、国産品は釣り合わないという現実があります。当たり前の話ではありますが製薬企業は材料である生薬は安ければ安いほど良いのです。対して生産者からみると薬の材料として制約も多く、尚且つ価格も安く抑えられ、勝手が分からない(場合によっては難しい、というキーワードも追加して)、薬用植物や薬用きのこを栽培するよりも普段からやっている慣れ親しんだ品を継続して生産した方が安定するというのも頷けます。

私がブクリョウという生薬の生産について研究し、各省庁が主催する生薬の国産化推進イベントに参加する中で感じたのは薬というのはやはり厚労省の管轄であり、厚労省は製薬会社と関係が非常に強く、殆ど身内のような関係性にあるのではないか?と疑問に感じたことがあります。あるイベントで個別相談会に参加してみると厚労省の方と同時にある特定の製薬会社の関係者も同席していて驚いたことが有ります。厚労省の方と個別に話ができるということでこちらは事前に研究の進展や技術的な話など機密情報も含めて提供していましたが製薬会社にも筒抜けだったのではないでしょうか。薬用植物や薬用きのこは薬の材料と言っても農産物でもあります。この部分に関しては一時的にでも農水省に主導権を握ってもらい、生産者を守るところから始めなければ生薬の国産化は事業としていつまでも定着しないのではないかと私は危惧しています。

※私は農学者であるため、薬について詳しいとは言えません。上記は私が感じたことなので事実かどうかわからない部分があります。その点、読者の方はご留意ください。

今回の漢方産業化推進研究会セミナーでは私の開発したブクリョウの栽培技術について紹介すると共に上記のようなことをパネルディスカッションにて述べさせていただきました。聴講頂いた諸先生方は薬のプロの方々なので私の意見などはよく御存じかと思われましたが積極的なコミュニケーションの場となったことは幸いでした。その中で薬屋さんとしてではなく、生産者側の人間として意見を発信できた有意義な機会となりました。

※2023年1月27日、薬事日報(株式会社薬事日報社、東京)に[「食と漢方の安全保障」をテーマに‐漢方産業化推進研究会がセミナー](5面)というタイトルで他の先生方のコメントと共に私の意見も掲載されました。

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