“日本における産学連携を通した農業の発展:鳥取県におけるアラゲキクラゲ生産の一例” (Frontiers in Sustainable Food Systems誌)掲載のお知らせ!
鳥取県のような地域における農業は、食料生産や収入源の確保、文化の伝達など、地域社会にとって不可欠な機能を備えており、重要な社会インフラとなっています。 また、日本を含めた都市部人口の集中は農村部からの人口流出をもたらし、農村農業を弱体化させています。地方の人口減少を防ぐためには、革新的で魅力的なビジネスの創出が有効です。このたび、鳥取県におけるきのこ生産者と菌蕈研究所間の産学連携を活用したビジネスの一例としてアラゲキクラゲ生産についてまとめた論文をFrontiers in Sustainable Food Systems誌におきまして”Enhancement of rural agriculture in Japan through industry-academia collaboration: a case of cloud ear mushroom production in Tottori Prefecture”というタイトルで発表しましたのでご報告いたします。
鳥取県と県内アラゲキクラゲ生産者の所在
キノコ生産は、環境への影響が少ない持続可能な循環型農業のモデルとして有望な選択肢となりますが、産学連携の例は世界的にみるとほとんどみられません。鳥取県では、国産キノコの中でも85%以上と非常に輸入品への依存が高い、アラゲキクラゲの生産が産学連携(生産者と菌蕈研究所)を通して行われています。
これまでもこのブログで書いてまいりましたが鳥取県における産学連携を通したアラゲキクラゲ生産の成功の理由には以下が挙げられます。
生産者によるインプット
・生産施設の検討
鳥取県にある廃校や温泉といった地域資源を活用することで独自性のあるきのこ生産を実現しました。
・マンパワーの活用
きのこ生産が比較的労力が少なく、年齢や障害関係なく、参加できるます。そのため、農業と福祉の連携は、社会参加を実現し、さらには農業に貴重な働き手を得ることができています。
・オーガニックの導入
近年増えつつある、アラゲキクラゲ市場において競争力を得るため、オーガニック認証を取得、生産基盤を強化しました。
菌蕈研究所によるインプット
・新品種の開発
どのような環境でも品質と高収量を維持できる菌興AP1号の開発は施設に対して投資が難しい中小生産者にとって重要な生産品目となりました。
・栽培手法の開発
短期間で最高の収量性を得られる栽培手法を開発したこと、病害虫の特定を進めたことでこれまで国内で疎かにされてきたアラゲキクラゲの栽培上の課題を解決できました。
・収穫後処理の検討
アラゲキクラゲはビタミンD2を最も多く含むキノコではありますが収穫後の処理によっては期待される含有量がないことが課題でした(ビタミンは紫外線を受けることで増大します)。紫外線照射装置を検討することで消費者、生産者、バイヤーの方のニーズに合ったビタミンを含有する最良の生産物を提供できるようになりました。また、異物混入がしやすいという課題がありましたが金属探知機の導入や地域の労働力を活用することでこれをクリアすることができました。
紫外線照射装置の導入
金属探知機の導入
以上の結果、鳥取県はきくらげの生産量日本一を達成しました。鳥取県におけるアラゲキクラゲ生産プロジェクトは食料の供給だけでなく、年齢や障害の有無に関係なく誰でも参加できるため、収入源の確保や社会福祉にも貢献しています。 また、生産には特別な土地や設備が必要ないため、低コストでプロジェクトを始めることができるという点も重要です。 これらの点から鳥取県における産学連携を通したアラゲキクラゲ生産プロジェクトは、単にきのこという食糧生産に留まらず、地域活性化にも貢献する有用なモデルであることがわかります。