きのこ胞子による子孫繁栄戦略と生産上の課題
こんにちはー!
久しぶりに裏庭に出てみると「ツチグリ」というきのこが発生していました!
こんな形でもキノコです。どう見ても何かの木の実にしか見えませんね。
実はこの中には沢山の「胞子」というものが詰まっています。
きのこは子孫である「胞子」を散布するための器官です。胞子というのは減数分裂※を経て形成される、植物における花粉のようなものです。皆さんがイメージする一般的なきのこでは胞子はカサの裏、ヒダの部分で作られます。
※減数分裂→簡単に言うと自分の持つ遺伝子をシャッフルして多様な性質を持つ子孫を作るためのプロセスとお考えください。
きのこには色々な形がありますが皆さんがイメージする形態はこれ↓ではないでしょうか。
シイタケの場合、ヒダは下を向いていますね。またサルノコシカケもヒダはありませんが代わりに細かい穴があり、これも下を向いています。これは胞子やその関連器官(ヒダや管孔)が乾燥して死んでしまうのを防ぐためです。下を向いていれば陽が直接当たることもありません。
下の映像はシイタケの胞子が飛ぶ様子です。
風に乗って1本のきのこから数億から数十億という胞子が散布されます。
植物でいう風媒ですね。
では先ほどのツチグリはどのように胞子を飛ばすのでしょうか。
動画では手で触って胞子を飛ばしていますが自然界では物理的な衝撃で散布されるものと考えられます。木の実のように見える部分の中央に穴があり、そこから上に向かって胞子を飛ばすのです。
他にも虫に食べてもらう虫媒タイプもあるようです(※Mycena chlorophos の発光の生態学的意義に関する研究)。八丈島にはヤコウタケ(下写真)という光るきのこが発生するのですがこの「光る理由」について研究がありました。アリやゴキブリといった虫が光に導かれ、キノコを食べ、排泄物として胞子を周囲にばらまくのだそう。排泄物中の胞子は消化されることなく、生存しているとのことです。
ゴキブリの消化にも耐えるとは、、、たくましい・・!
このようにきのこは子孫をいかに守り、いかに効率良く、広く散布するかを目的に形態が進化してきました。きのこにとって胞子はこんなにも大事な存在なのですがきのこを栽培する人たちにとっては様々な問題の原因となります。
生産者がきのこ栽培を行っている密室内で作業を長時間、行うと胞子を大量に吸い込むと鼻水やくしゃみ、咳などのアレルギー様症状が出ます。咳が慢性的になり、重篤な症状では肺炎を起こします(過敏性肺炎)。あとはきのこを栽培する部屋が胞子で汚染されるとその胞子を栄養源にするようなダニや他のカビなども発生し、二次汚染が懸念されることになります。
そこで重要となるのが「胞子をつくらないきのこ品種」の開発です。これは無胞子性品種といい、日本ではエリンギやヤナギマツタケ、ヌメリスギタケが、海外ではヒラタケのみが市場に出回っています。上記のうち、エリンギについては私が開発し、「濃丸」という名前で鳥取近辺では販売が始まっています。またヤナギマツタケについても私が所属する日本きのこセンター菌蕈研究所の開発した品種です。
きのこ胞子は消費者にとっては問題になりません、しかし生産者にとってはきのこ生産の継続すら難しくなる大きな問題となります。生産者の労働の質(Quality of Working Life: QWL)向上を消費者の皆さんも考慮することが日本国内のきのこ生産を継続し、食の持続可能性を確固たるものにするために重要なのです。