さて前回からの続きです。→前回リンク
インド北部のジャンムー・カシミール連邦直轄領にある大学、Sher-e-Kashmir University of Agricultural Sciences and Technology of Kashmir (SKUAST-Kashmir)からDr. Khurshid Ahmad Bhat氏を無事受け入れることができました。
これまでも研修や視察で海外からのお客さんを受け入れることは年に数回あったのですが何れも短期間でした。ただし、今回は2ヶ月間、ということで逃げも隠れもできません。Dr.Bhatは化学系出身の博士号をお持ちであり、きのこ栽培については未経験ですので彼が2ヶ月間の間に全てを体験できるように事前に準備をする必要がありました。例えばシイタケの栽培ですが培養だけで3ヶ月間を要します(図1)。
図1シイタケ栽培の手順
普段何気にスーパーで買ったりする菌床シイタケですが何カ月もの間、生産者に見守られて生産されています。
2ヶ月間の比較的長期の研修視察とはいえ、上記のように彼が調製し、そして接種したシイタケ菌床を彼自身が発生させるには時間が足りません。そのため、彼が菌床の調製や接種だけでなく、発生処理→収穫→単胞子分離や組織分離→交配をこなせるように入念な準備に基づいてスケジュールを組むことにしました。
それでもスケジュールは結構タイトな部分もあり、、、
・発生処理→収穫 10-14日
・単胞子分離 14日
・交配試験 7日
これだけでも普通に1ヶ月かかります。
図2 Dr. Bhatとシイタケの栽培風景
それに加えて
・種菌製造技術
・培地調製や滅菌管理、無菌操作技術
・育種技術
・接種室、培養室の清掃管理(ただの掃除。でもとっても大事!)
以上のようにたくさんやることはあり、しかも1回では理解や技術の習得に至らないことが多いので複数回やるとなると結構ギリです。でもスキマ時間も結構あって・・・
私の方で仕事があまりない、そんな時には弊所の分類学、原木シイタケ、栄養学、分析化学の研究員たちが彼のきのこ関連の知識の蓄積のため、助けてくれました。また菌興椎茸共同組合の種菌製造施設(通称:育成場)での視察もきのこ産業において種菌製造がネックになることが多いのですごく重要なポイントになったと思います。
図3 野外きのこ採集実習と種菌製造施設の視察
また丁度、年に1回の滅菌釜(圧力容器)の整備点検があり、彼にも見学してもらえたのはラッキーでした。また県内外のきのこ生産者への視察ができたことも彼にとって良かったと思っています。生産者はそれぞれ独自に施設を持っており、私の所だけでなく、様々な生産環境を見ることが帰国後の施設運営の工夫に繋がると考えています。
図4 滅菌釜(圧力容器)の整備
彼の人柄と研究に対する熱心さもあり、最終的にSKUAST-Kashmirと弊所、菌蕈研究所は研究協定を締結しました。現在もカシミール地方におけるリンゴ剪定枝を用いたシイタケ栽培研究は継続しています。今後のカシミールにおけるきのこ栽培の発展がすごく楽しみですね。
休みの日にはDr. Bhatを誘って外出しました。(折角、鳥取に来てもらったのだから色々と見てもらわないと。)鳥取砂丘や鳥取城跡、博物館、浦富海岸など色々と出かけました。鳥取は立派な田舎(?)なので海外の方の大都市日本のイメージに合わないかなあと思いはしましたが彼はそんなことは無く、鳥取の落ち着いた風景や環境に感じ入るものがあったようで楽しんでくれました。(鳥取の田園風景にカシミールに近いものを感じたのでしょうか。)
図5 超ラフな筆者といつも通りのDr.Bhat@浦富海岸
また出かけたそんな日には帰りに必ず彼のマンスリーアパートでお茶のお誘いがありました。彼の作るチャイはすごく薫り高くて本場の味です。それを飲みながら研究の今後、政治のこと、あまり日本人が話さない宗教観についてなど色々話してくれました。
彼の印象的な言葉がいくつかあります。
私が仕事の待遇についてぶつくさ言うとと彼は「それは運命だから」と言いました。
また私が子供と遊んでくれて「ありがとう」と言うと「子供は天使だから」と言いました。
これだけでも彼の良い人柄が分かりますね。
これからもきのこの研究を通して身近な地域から他国まで幅広く、地道に貢献できたら嬉しいと思います。
お読みいただきありがとうございました。