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きくらげのおはなし⑪食品副産物オカラを使ってアラゲキクラゲを早く栽培する!?

きくらげのおはなし⑪食品副産物オカラを使ってアラゲキクラゲを早く栽培する!?

今日の!<これだけ知っていればOK!>
・食品副産物のオカラは食品や飼料として使えるにもかかわらず、産業廃棄物として処分されることが多く、処分費用が問題となっている。
・貝化石を添加するとアラゲキクラゲは一般的な60日培養から40-50日培養まで短縮可能!
・貝化石に加え、ヌカをオカラに転換することでさらに30日培養まで短縮可能!

皆さん、こんにちは!!
以前、アラゲキクラゲの栽培にカルシウムを添加することで一般的な60日培養を40-50日にまで短縮できるというお話を書きました。
→きくらげのおはなし⑧「アラゲキクラゲ栽培においてカルシウムは必須なのか!?」参照

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ここではさらに30日まで短縮する方法として日本きのこ学会誌に拙著「アラゲキクラゲ栽培における乾燥オカラ添加による培養日数の短縮効果」が掲載されましたので少々内容を書いてみようと思います。

これまでにも書いてきましたようにアラゲキクラゲの国内生産は拡大しつつあります。しかし長期にわたって輸入に依存してきたことからその栽培方法、特に培地の配合については検討が軽視されてきました。アラゲキクラゲは広葉樹を好むなどシイタケと似たところがあるため、シイタケの培地配合や菌床がそのまま流用されてきたように私は思います。しかしこれはアラゲキクラゲにとって最適な条件とは言えず、今後の生産体制の強化に向けてより良い培地の配合を検討する必要が出てきました。

これまでにもきくらげのおはなし⑧に書いたように炭酸カルシウムを主成分とする貝化石を添加することで培養日数を短縮可能であることを明らかにしました。さらに培養日数を短縮できれば培養に要する期間を半減できる!というわけで食品副産物であるオカラを使ってみることにしました。

何故オカラなのか?

オカラは食品としても知られますがその消費は多くは無く、飼料としても利用されるものの大半が産業廃棄物として処分することを余儀なくされており、その処分費用はオカラを産出する企業にとって大きな負担となっています。また食品として食べられるものを捨てることに対する私個人の抵抗感(貧乏性なもので..)もあり、この研究は始まりました。

では全く当てもなく始めたわけではなく、これまでにも飼料として流通しているオカラを他のきのこで試したことがありました。そのとき、培地が軽くなったという経験がありました。培地が軽くなることは、すなわち培地の物性に変化がある事を示します。分かりやすく言えば培地がフカフカになってきのこの菌糸が回りやすくなるのではないかと思ったわけです。当時試したきのこは培養期間が短期であったためか、そのような変化は感じられなかったのですがアラゲキクラゲは60日も培養が必要であるため、大きな差が出るかも?、と考えました。また培養が早く進むということはきのこの菌糸が菌床内に十分に蔓延し、収量が上がる可能性も考慮してこの研究を始めました。

まずは培地の配合です。
以下のように基材と栄養材を80%、20%の割合で混合します。基材はブナ、栄養材はヌカとフスマをそれぞれ40%と60%の割合で使用します。今回はヌカとフスマのうち一方もしくは両方をオカラに代替して試験します。

あと重要なのは添加材の貝化石。
これを最適量添加することで一般的な60日培養から40-50日培養まで短縮できます。
→きくらげのおはなし⑧「アラゲキクラゲ栽培においてカルシウムは必須なのか!?」参照

次に上記の培地配合に則って菌糸伸長を調べます。
以下はヌカ、フスマ、もしくはその両方をオカラに転換して培養した菌糸伸長の結果です。

結果は予想通り!
スタンダードな培地と比較して明らかに菌糸伸長が促進しています!
黄色の四角の中のようにスタンダードと比較してオカラを添加した全ての区画で菌糸伸長が促進しました。またフスマだけよりも「ヌカのみ」や「両方」をオカラに転換した方が良い結果となっています。

では肝心の収量はどうでしょうか。
以下のように培養日数を30、40、50、60日に分けてスタンダードな培地と栄養材をオカラに転換した培地で乾燥収量を比較してみました

アラゲキクラゲは水を頻繁にかけて栽培しますので生重で収量を比較することはできません。
そのため、収量を正確に表すには乾燥重量が適切です。

培養日数が30日のオカラに転換した培地のうち、特にヌカ→オカラにおいてスタンダードな培地と比較して明らかに収量性が良くなりました(黄色の四角)。しかし、40-60日培養では増収は確認できませんでした。

この結果は何を示すのでしょうか?

まずスタンダードな培地では30日という短期間の培養は不十分であり(紫色の四角)、40-60日培養と比較して低収になることが分かります。対してオカラに転換した培地(特にヌカ→オカラの培地)では30日培養においても40-60日と同等の収量が得られています。これはすなわちヌカをオカラに転換することで培養日数を30日に短縮できることを意味します。

フスマや双方をオカラに転換した場合には大きな効果が得られなかった理由は不明ですがヌカのみをオカラに転換することが最も有効であることが示唆されました。

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いかがでしょうか。
60日もかかるアラゲキクラゲの培養を30日まで短縮できるのは魅力的です。
アラゲキクラゲの国内産は増えつつあり、スーパーなどでも見かけるようになりましたが、まだまだ外国産と比較して2倍以上は高いというのが現実かと思います。そんな中、このような生産基盤を固める地道な研究が国内生産の今後を支えるのかもしれません。

この研究の詳細は日本きのこ学会誌に以下のタイトルで掲載されました。
奥田康仁ら:アラゲキクラゲ栽培における乾燥オカラ添加による培養日数の短縮効果,日本きのこ学会誌30, 155-159 (2022)

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