きくらげのおはなし⑦「ガッテン」に見る”きくらげ”国内生産裏(?)事情!
・アラゲキクラゲの国内生産が10年間で7倍以上に急増!
・急増の結果、国内市場は飽和状態に!
・消費の裾野を広げる作戦として一般消費者に販路の矛先が!
・特に「生」は「乾燥品」と比べ、コストがかからないため、特に売りたいのが生産現場の本音!
・多くの情報発信番組が”きくらげ”として特集しているが本当の名前は「アラゲキクラゲ」!
ちょっと前(2021年7月14日)になりますがNHKの「ガッテン」で”きくらげ”の特集をしていましたね(→「ガッテン」ウェブサイト)。その前にもどこかの番組で ”きくらげ” が特集されて大反響だったと生産の方が言っていました。最近、耳にすることが多いこの”きくらげ”。なぜこのようにクローズアップされることが多くなったのか今回は ”きくらげ” 国内生産の裏事情から紐解いてみようかと思います。
まず、「ガッテン」内でも示されていましたが10年間で国内生産量が7倍以上と急増しています。この理由は外国産に対する不信感から実需者の国内産に対する要望が高まったことにあります。ちなみに下の図にキクラゲ類と書いてあるのは農林水産省の統計ではキクラゲ、アラゲキクラゲ、シロキクラゲの3種をまとめて「きくらげ類」としているためです(ぶっちゃけややこしいから複数種をまとめるのは勘弁してほしい)。ですがここで皆さんに最初に知っておいて頂きたいのは国内で生産されているのはほぼアラゲキクラゲのみなのでアラゲキクラゲの生産量が7倍以上急増しているとみなして良いということです。
そしてこの国内生産の起爆剤となったのがちゃんぽんで有名な「リンガーハット」です。
ここの凄いところは使っている野菜は全て国内産!しかも麺・餃子の小麦粉でさえ国内産!(個人的に麺増量無料サービスが終了したのは残念ですが笑)(→リンガーハット国産化の歩み)このリンガーハットが国内産”きくらげ”の生産を推進したことが一連の ”きくらげ” ラプソディ(!?)の始まりでした。
実はこれには私の勤める(一財)日本きのこセンター菌蕈研究所も一枚噛んでいます。約7-8年前、当時国内ではまだ”きくらげ”の国内大量生産が困難でした。これを本格化すべく白羽の矢が立ったのがきのこを専門とする研究所として国内随一の歴史を誇る我々、(一財)日本きのこセンターでした。それ以来、リンガーハットと(一財)日本きのこセンターの ”きくらげ” を通した関係は続いており、(一財)日本きのこセンターが推進することで鳥取県内外の生産者とともにリンガーハットで使用される”きくらげ”の50%を供給しています。
さて、このような経緯で国内でも大量生産されるようになったものの現在、実は国内産は飽和状態にあります。理由は明白で”きくらげ”は国内において消費されるのが主に加工食や外食産業だったから。
ここで国内産と外国産の価格差に注目してみましょう。私の個人的な調査ですが国内産は外国産の2-5倍程度高価です。当然、食品関連企業や外食産業ではコストカットのため、外国産を使いたいのが本音ですので国内産はなかなか使われません。リンガーハットのような国内産を積極的に使用する志の高い企業は少ないのです。
そこで重要になってきたのが消費の裾野を広げる作戦です。すなわち一般消費者の需要拡大が急務になったわけですが残念ながら日本ではあまり”きくらげ”を日常的に使う習慣がないため、”きくらげ”を日本の食習慣に定着させることがまず重要となってきているのです。そして乾燥品ではなく生の”きくらげ”をできれば売りたいのが全国の生産者の本音です。なぜならば乾燥にコストがかかるからです。”きくらげ”は意外に生産コストがかかるきのこです。エノキやブナシメジなどは収穫したらパックに詰めるだけ。でも”きくらげ”は収穫した後、根元をハサミで切って水洗してきれいにした後、さらに乾燥する必要があります。どちらがコストがかかるか言うまでもなく後者ですよね。
このように国内の”きくらげ”事情としては荷余り気味、そしてコストがかかる乾燥品よりも生で売りたいのが生産現場の狙いというわけです。だから「ガッテン」やその他の番組でも特に生の”きくらげ”を特集する傾向にあるというわけです。まあ個人的には生よりも乾燥品の方が歯応えがしっかりしていて好きなんですけどね。
さて、鋭い方(?)はここまでずーっと”きくらげ”となぜかカッコ書きで書いてあることに気付かれておられるかもしれません。このページの最初に国内生産が7倍以上増加していると書きました。そこで示したように日本国内で生産が盛んに行われているのは正確には「きくらげ」ではなく「あらげきくらげ」(アラゲキクラゲ)※です。
ではなぜ ”きくらげ” と書き続けたのかというと「ガッテン」を含めた”きくらげ”を発信する番組の大抵が 「あらげきくらげ」(アラゲキクラゲ) のことを単に”きくらげ”と言ってしまっているのです。「そこって目くじら立てるところなの?」と思われる方もおられると思います。しかし、[きくらげのおはなし⑥「アラゲキクラゲ国内生産における問題~食品表示~」]でもお話しした通り、「食品表示は消費者が食品から確認できる唯一の情報源であり、企業や生産者の責任の所在を明らかにし、食の安全を担保する」重要なものです(もっと知りたい方は→きくらげのおはなし⑥へ)。
私個人の意見ですが「ガッテン」でも単に”きくらげ”ではなく「あらげきくらげ」(アラゲキクラゲ) とはっきり、さらっっとでも良いので説明してほしかった・・(ちなみに「ガッテン」ホームページにおけるレシピ紹介では「国産のアラゲキクラゲを使用」と記載がありましたから意識はしていたのでしょう。)。そして、この問題について実害があるのかと言うとあらげきくらげ(アラゲキクラゲ)ときくらげ(キクラゲ)は異なるきのこ(つまり別種)であり、実はきくらげ(キクラゲ) の方が価格的に2倍くらい高いのです(国内産はほぼ無いのですが)。つまり価格差があるものを同じものとして扱うのはどうかとも思うのです。情報発信番組なんだから正確な食品表示を心掛けてほしいものですね。
※「きくらげ」と「キクラゲ」、「あらげきくらげ」と「アラゲキクラゲ」のような平仮名とカタカナ表記に大きな意味の違いはありません。一般的には平仮名でも間違いではありません。しかし、私のブログは科学的アプローチをしていますので科学的により正式なカタカナ表記の「アラゲキクラゲ」を採用しています。
[まとめ]
今回は”きくらげ”がなぜ最近、妙にテレビで露出が多いのか、国内生産の裏事情からお話ししてみました。現在、アラゲキクラゲの国内生産は増加していると言ってもまだまだ消費量の8%程度です。今後、さらに国内生産を定着させ、増加させるためには食品関連企業や外食産業だけでなく一般消費者にも買ってもらわなければならない訳ですね。最後の方に苦言のようなことを書いてしまいましたがアラゲキクラゲの国内生産に関わる人間として「ガッテン」のような番組は世間に対し、ものすごく影響力があるのでこれからもどんどん発信していってもらいたいです。そのなかで上記のような食品表示上の議論もあっても良いと私は考えています。
・アラゲキクラゲの国内生産が10年間で7倍以上に急増!
・急増の結果、国内市場は飽和状態に!
・消費の裾野を広げる作戦として一般消費者に販路の矛先が!
・特に「生」は「乾燥品」と比べ、コストがかからないため、特に売りたいのが生産現場の本音!
・多くの情報発信番組が”きくらげ”として特集しているが本当の名前は「アラゲキクラゲ」!!